【コラム】出向とその注意点

近時、コロナで影響を受けている業界から、他の業界への出向が話題です。

「空の企業」、出向を加速…JALは消費者と接点多い企業・ANAは幅広く

現状はやむに已まれぬ要因に基づくものかもしれませんが、働き方の多様化や人材の流動化によって今まで以上に「出向」が活用される可能性もあります。中小企業にとっては決して身近なものではありませんが、これから変化が生じてくるかもしれません。

そこで、今回は元の会社に籍を残したまま行ういわゆる(在籍型)出向について見てみましょう。

 

1 出向の意味

出向とは、「労働者が自己の雇用先の企業に在籍したまま、他の企業の従業員または役員となって長期間にわたって当該他企業の業務に従事すること」をいいます。この場合、出向した労働者は、出向元企業とは労働契約を維持したまま、労務は提供しないという状態となります。

2 出向の要件と限界

労働者にとっては指揮命令権の帰属者(使用者)の変更が生じることになるため、労働契約当事者間(出向元企業、出向先企業、労働者)の合意があれば出向が可能となります。

ちなみに、労働者の同意は、個別の出向命令の時点での同意までは不要で、採用時の予めの同意でもよいとされています。とはいえ、労働契約、就業規則や労働協約上に規定があるからよいという姿勢ではなく、出向の度に丁寧に説明を行い個別の同意を取ることや、出向にあたって三者間契約を締結することが適切です。

繰り返しになりますが、出向に関しては労働者の同意が重要となるので、その同意の有無が争われるような場合には問題が生じます。また、労働条件が著しく不利益になるような場合には権利濫用として無効となる場合もあります。

3 労働者派遣と出向の差異

出向と似たものとして労働者派遣法における労働者派遣があります。

しかし、労働者派遣には、「当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない」ので、在籍型出向については、出向元企業との間に雇用契約関係があるだけではなく、出向元企業と出向先企業との間の出向契約により「出向労働者を出向先企業に雇用させること」を約して行われていることから、労働者派遣には該当せず、その規制はかからないことになります。

4 労働者供給と出向

労働者供給とは「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣法第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないもの」(職業安定法第4条)です。そして、出向の形態は労働者供給に該当するので、その在籍型出向が「業として行われる」ことにより、職業安定法第44条により禁止される「労働者供給事業」に該当するようなケースが生ずることもあります。

ただし、在籍型出向は、通常、①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する、②経営指導、技術指導の実施、③職業能力開発の一環として行う、④企業グループ内の人事交流の一環として行う等の目的を有しており、出向が行為として形式的に繰り返し行われたとしても、社会通念上「業として行われている」と判断し得るものは少ないと考えられます。

 

法規制や労働者の同意に十分気をつける必要はありますが、うまく出向を活用すれば人材育成や組織の活性化につなげていくことができます。活用時には、専門家に相談してみることも良いでしょう。