【コラム】カスタマーハラスメントへの対策(改正労働施策総合推進法)について

はじめに

 昨今、顧客や取引先からの著しい迷惑行為、いわゆる「カスタマーハラスメント」が社会問題化しており、企業における対策が急務となっています。

 このコラムでは、今後施行が予定されている改正「労働施策総合推進法」(以下、「改正法」といいます。引用している条文は、とくに記載がないかぎり改正法の条文です。)により事業主等に新たに課せられるカスハラ防止に向けた法的義務と、対策を怠った場合に生じうるリスクについて解説したいと思います。

カスハラとは

一般的にカスハラとは、顧客等からのクレームや言動のうち、以下のような場合や言動が想定されています。

① 要求の内容・中身が妥当性を欠く場合
  例)不当に過大な要求、そもそも提供していないサービスの要求など

② 要求実現のための手段・態様が社会通念上不相当なものである場合
  例)暴力を振るう、脅迫する、威圧的にふるまうなど

改正法の内容

改正法におけるカスハラの定義

職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(法33条1項)。

事業主の義務

① 労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない(法33条1項)。

② 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(法33条2項)。

③ 事業主は、他の事業主から当該他の事業主が講ずる第一項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない(法33条3項)。

④ 事業主は、顧客等言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない(法34条2項)。

⑤ 事業主は、自らも、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない(法34条3項)。

事業主が義務を怠った場合

 3項に記載した事業主の義務(ないし努力義務)を怠った場合、現時点では特に罰則の定めはありません。
しかし、現実的には次のようなリスクがあり得ます。

① 従業員の離職など人材確保に困難が生じる。

② 風評被害の発生(ブラック職場的な)

③ 安全配慮義務違反として損害賠償の対象となる可能性がある

 とくに③ですが、労災認定基準のうち「心理的負荷による精神障害の認定基準」に、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)が令和5年9月の厚労省労働基準局長通知により追加されていることにも注意が必要です。

 事業主は、労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。

 事業主がカスハラに対する適切な対応を怠った場合、そのことが事業主に課せられている「安全配慮義務」に違反すると判断され、カスハラ被害にあった従業員等から民事上の損害賠償請求を受ける可能性があるのです(パワハラやセクハラ被害にあった従業員からの損害賠償請求と同種のリスクです。)。

事業主に求められる対応

事前の対応

  • 基本方針の策定と周知……「カスハラを許容しない」という姿勢を明確に。
  • カスハラを受けた従業員の相談対応体制の整備
  • カスハラ発生時の対応ルール(対応マニュアル等)の作成
  • 従業員への教育・研修(対応ルールに沿って対応できるよう)

カスハラ発生後の対応

  • 正確な事実関係の調査・対応
  • カスハラを受けた従業員への配慮措置
  • 再発防止策の検討や対応ルール・教育研修内容へのフィードバック

対応に求められる視点

 対応ルール・対応体制の整備などハード面の整備をしっかりと行うことが重要ですが、それが適正に運用されるようソフト面の対応も重要です。ハード面を整備して終わりではなく、運用に注意を払うことが重要です。カスハラ対応は、対人対応ですので絶対的な正解などは想定しにくく、ケースごとに必要な対応を柔軟に検討・実施していくことが必要です。

おわりに

 具体的にどのような対応ルールや体制をつくるべきなのかという疑問には、厚労省がマニュアルの例などを公表していますので、それを参考に自社の事情や事業内容に応じたマニュアルを作成することが考えられます。

 また、実質的にはカスハラが問題とされた損害賠償に関連した裁判例などもありますので、お困りの場合にはお気軽にご相談いただければ、適切な対応に向けたアドバイスが可能です。

(弁護士 土佐一仁)令和7年11月18日