【コラム】支払督促が届いたらどうする?
新型コロナウイルス感染拡大のために、収入が不安定になり、借金の返済が難しくなってしまった、もう何か月も支払いが遅れてしまっている、という方がいます。
そういった方のところには、お金を借りている消費者金融やカード会社のコールセンターなどから電話が来たり、ハガキが届いたりします。そして、それでも返済ができずにいると、裁判所から【支払督促】という書類が届くことがあります。
裁判所からの書類でもあり、ここで驚いてインターネットでいろいろと検索をしたり、弁護士に相談したりされる方も多いでしょう。そこで、今回はこの【支払督促】について簡単に説明し、どう対応していくべきか考えていきます。
そもそも【支払督促】とは、「簡易裁判所が行う簡略化された支払請求の手続き」と表現することができるでしょう。具体的には、貸したお金や未払の家賃、賃金などを相手方が支払わなくなった場合に、債権者側の申立てのみに基づいて、簡易裁判所の書記官が相手方に支払いを命じる民事訴訟法上の略式の手続です。
(支払督促の要件)
第382条 金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促を発することができる。ただし、日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る。
これは、金額に関係なく、貸金や売買代金、家賃の請求などに使うことができますが、債権者の申立てに基づいて、裁判所書記官がその内容を審査し(特に細かい証拠などは確認しません)、相手方の言い分を聞かずに金銭の支払いを命じることになり、さらに、支払督促を送っても受け取った人がお金を支払わず、また、異議申立てもしない場合、債権者は、仮執行宣言の申立てを行い、最終的には強制執行(口座や給与からの強制的な取り立てなどがあり得ます)を申し立てることができます。
つまり、早く強制執行を行いたい債権者にとっては、簡便で使いやすい手続なのです。
さて、今回は「支払督促が届いてしまったらどうすべきか」がテーマですが、この場合の選択肢は、①何もしない ②異議申し立てをする の2つしかありません。
1 「何もしない」
何もしなければ、その支払督促が確定し、債権者は仮執行宣言をへて、強制執行(口座の差押えや給与からの取立て)をすることができます。
例えば、お金を借りたのは間違いない、しかし返すお金も無い、収入も特にない、もう何も言う事はないというようなときには、この「何もしない」という選択肢を取らざるを得ない場合もあるでしょう。
2「異議申し立てをする」
支払督促(郵便物で届きます)を受け取ってから2週間以内に異議申し立てをすれば、支払督促は効力を失います。
異議申し立てがなされた後は、通常の訴訟手続に移行することになります。
(仮執行の宣言前の督促異議)
第390条 仮執行の宣言前に適法な督促異議の申立てがあったときは、支払督促は、その督促異議の限度で効力を失う。
(督促異議の申立てによる訴訟への移行)
第395条 適法な督促異議の申立てがあったときは、督促異議に係る請求については、その目的の価額に従い、支払督促の申立ての時に、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所又はその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合においては、督促手続の費用は、訴訟費用の一部とする。
ちなみに、異議申し立ては、支払督促が届いてから2週間を経過してしまった後、債権者の申立てによって仮執行宣言がなされた場合には、仮執行宣言付の支払督促を受けとったあと2週間以内にも申し立てることができます。
なお、この場合には異議申し立てだけでは強制執行を止める効力は無いので、合わせて執行停止の申立ても必要となります。
(仮執行の宣言後の督促異議)
第393条 仮執行の宣言を付した支払督促の送達を受けた日から二週間の不変期間を経過したときは、債務者は、その支払督促に対し、督促異議の申立てをすることができない。
(執行停止の裁判)
第403条 次に掲げる場合には、裁判所は、申立てにより、決定で、担保を立てさせて、若しくは立てさせないで強制執行の一時の停止を命じ、又はこれとともに、担保を立てて強制執行の開始若しくは続行をすべき旨を命じ、若しくは担保を立てさせて既にした執行処分の取消しを命ずることができる。ただし、強制執行の開始又は続行をすべき旨の命令は、第三号から第六号までに掲げる場合に限り、することができる。
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三 仮執行の宣言を付した判決に対する控訴の提起又は仮執行の宣言を付した支払督促に対する督促異議の申立て(次号の控訴の提起及び督促異議の申立てを除く。)があった場合において、原判決若しくは支払督促の取消し若しくは変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと又は執行により著しい損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったとき。
ここで大事なことは、支払督促を受け取った人が異議申し立てをして主張すべきことは、「借りていない」「返した」といったことだけではない!ということです。
例えば、「一括では返せないけれど、分割なら返すことができる」「3ヶ月だけ返済を待ってほしい」「〇〇円までなら何とか払うので残りは免除してほしい」こういった話し合いをしたい場合も、異議申し立てをすれば訴訟手続の中で話し合いをすることができます。
逆を言えば、異議申し立てをしなければ、債権者とは何の話し合いもすることができないということです。
「もうどうでもいい…」というような方でない限り、とりあえず最初の支払督促が届いてから2週間以内に異議を出しておく、そして、早めに弁護士に相談してみる、ということを頭に入れておきましょう。
(弁護士 中小企業診断士 中村紘章)