担当していた刑事事件の争点に関連のありそうな論文が載っていたので,刊行されたばかり「池田修先生 前田雅英先生 退職記念論文集 これからの刑事司法の在り方」という論文集を購入してみました。

 

論文集の目次を眺めていたところ,目当ての論文とは別なのですが「自動運転と過失責任」という木村光江先生の論文が目についたので読んでみました。それをきっかけに,自動運転についてちょっとだけ考えてみましたので書いてみたいと思います。

 

自動運転といっても,一般にレベル分けされて議論されています。ごく大雑把に整理すると次のようになります。

 

レベル0  運転者が主体となりすべて運転

レベル1  運転者が主体だが前後・左右のいずれかのサブタスクをシステムが実行

レベル2  運転者が主体だが前後・左右の両方のサブタスクをシステムが実行

レベル3  システムが主体となって限定領域内ですべての運転制御を実行

ただし,システムによる制御が困難な時には運転者が主体となって制御に応答することが期待される

レベル4  システムが主体となって限定領域内ですべての運転制御を実行

困難時も運転者からの応答は期待されていない

レベル5  システムが主体となって無制限にすべての運転をシステムが実行

 

現在すでに広く実用化されている運転支援システムはレベル2に該当するものです。レベル2では,車両制御の主体はあくまで運転者ですので,事故が発生した場合には,運転者の責任が問われるということになります。

 

しかし,レベル3になると,車両制御の主体がシステムに移行しますので,事故が発生した場合に運転者の責任についてどのように考えるのかという点が問題となるのです。

 

木村光江先生の論文は,刑事法領域での研究ですので,刑事責任を中心に議論されています。主としてレベル3の場合について,自動運転を可能とする自動車を製造販売しているメーカーと,実際に事故を起こした車両に搭乗している運転者との間での刑事責任の振り分けを議論したものと言ってよいかと思います。

 

論文の話とは別の話になりますが,一般的に人身事故が起きた場合の民事的な責任(金銭賠償など)の議論では「運行供用者」の責任が問題となります。

 

「運行供用者」とは,自動車損害賠償保障法(自賠法)で定められている「自己のために自動車を運行の用に供する者」を指します。運転者のほかに,車の「所有者」が含まれる場合が多いといえます。

 

運行供用者は,「その運行によって他人の生命又は身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する」責任を負っています(自賠法3条)。

 

人身事故での運行供用者の賠償責任が免除されるのは次の①~③をすべて立証することができた場合に限られます。

① 自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと。

② 被害者又は運転者以外の第三者に故意過失があったこと。

③ 自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと。

 

自動運転の場合,③が問題となりそうです。

 

自動運転のシステムに故障が生じたので事故が起きたような場合は,③の条件を満たすことができません(機能の障害があったことになります。)。また,そもそも自動運転のシステム自体に設計段階や構造的な欠陥があって事故が起きたような場合も,③の条件を満たすことができません(構造上の欠陥があったことになります。)。

 

したがって,レベル3よりも高いレベル(事実上車両制御がシステムに任されているような場合。レベル4以降だと,乗っている人は運転せずに自由に過ごしている(本を読んだり動画をみたしていると想定されます。)の自動運転中に人身事故を起こしてしまった場合でも,運行供用者はその責任を免れることができない可能性が高いといえます。

 

ちなみに,自動車メーカー自体に事故の責任を問うとなると,製造物責任法に基づく請求方法を検討することとなりそうですが,その場合は請求をする者が,システムの故障や欠陥の存在について立証する必要があるとされています。複雑で高度なシステムの内容を十分に解明して故障や欠陥の存在を具体的に立証しなければならず,立証のハードルが高くなる場合が多そうです。

 

現行法では,高度な自動運転システム(実質的にブラックボックスとなっていて素人には理解不能なシステム)が導入されている場合,システムの故障や欠陥によって起きた事故であったとしても,運行供用者が責任を負う結果となり,自動車メーカーに対する責任追及は現実的に難しいという事態が生じることがあり得るといえます。被害者側から見れば,賠償責任が果たされれば,責任を果たすのが誰であるかというのは,あまり問題にならない場合もあるのかもしれませんが,賠償をする側に着目すると,責任の分担の状況が適正かどうか,技術の進歩にあわせた新しい制度設計が必要になりつつある場面といえると思います。

参考文献  「池田修先生 前田雅英先生 退職記念論文集 これからお刑事司法の在り方」秋吉純一郎他編集 弘文堂

「ロボット・AIと法」弥永真生・宍戸常寿 編 有斐閣

(弁護士 土佐 一仁)